京都の狛犬達 / 狛亥の巻
お国柄「権力の守護獣」
初詣参詣に訪れた人達の群れをじっと見ているのが、社の前に陣取った左右二頭の生き物である。斜に構え威風堂々と腰を下ろし、筋肉質にこさえられた手足は緊張感を保ち、威圧を与えるような形相で、参詣者を出迎えていた。
この石でこさえられた門兵のような生き物を誰もが「狛犬(こまいぬ)」と呼ぶ。
各神社には様々な生き物の狛犬がお仕えしていることにお気づきであったろうか。直ぐに思い浮かぶのは稲荷神社系の「お狐さん」だろう。
次に、唐獅子のような名前の知らない奇怪な動物を思い浮かべるであろう。
つまり「狛犬」とは称すれど、使役犬や愛玩犬を思いはしない。
そこで、亥の歳にあっては、是非「狛亥(こまいのしし)」に見えるべくと、御所の西側、蛤御門向かいに鎮座する「護王神社」を訪れた。京では別称「いのしし神社」と呼ばれている。
歴史書「日本後紀」に「祭神和気清麻呂公が京より宇佐へ向かわれ災難にあわれたのを300頭のイノシシが現れお護りした」と記されていることに由縁しているが、拝殿前の雌雄一対の「狛亥」は、明治23年にシンボルとして建立された比較的新しいものである。他にも本殿前招魂木(おがたまのき)の根本には「願かけ猪の石像」があり、願かけの串(座立亥串・くらたていぐし)がその周りには立てられ、足腰の守護のご利益にあやかろうとする参詣者は後を絶たない。
さて、更に狛犬に関心を向けてみると。一体「狛犬」とは何なのか。
神社に奉納されている古き狛犬の姿に共通しているのは、右が口を開いた角なしの「獅子」、左が口を閉じ一角のある「狛犬」である。 日本独自の様式としての「唖像(あぞう)」「吽像(うぞう)」の一対を以って「獅子狛犬」と呼び習わし、「阿吽の呼吸」という熟語もある。
その姿から空想上の守護神獣であることは容易に伺える。八坂神社の石段上から祇園界隈を見下ろしているように見えるのは、間違いなく「獅子・狛犬」である。
龍や麒麟、唐獅子などの神獣霊獣が皇帝の守護獣となっていた獅子座思想を中国より宮中に持ち帰ったのは遣唐使であった。一対の獅子像が仁王像の阿吽の如く、獅子狛犬になったのは平安後期に生み出されたものと言われている。
こうして獅子狛犬は、宮中にて天皇の守護獣として定着していったようだ。
そして、神社に神像が鎮座する様式と同時に獅子狛犬も設置される運びとなった。
ライオン(獅子)が守護獣として尊重される風習は古代オリエント時代より世界各国にあり、神殿、宮殿には権力の象徴のように獅子像は置かれている。また、ガンダーラの仏像の台座にもライオン(獅子)が刻まれている。
獅子が空想の動物であった京都において、権力の守護獣が庶民信仰として定着してゆく歴史を、獅子狛犬を追っかけての神社詣にて学ぶも面白いものだろう。
因みに、鞍馬寺の由岐神社は寅のような狛犬である。
京都・御所西 護王神社
http://www.gooujinja.or.jp/index.htm
戌 2 題(戌歳にちなんで)《 狛 犬 》 (月刊京都史跡散策会)
http://www.pauch.com/kss/#inu
ようこそ狛犬の世界へ 狛犬ネット
http://www.asahi-net.or.jp/~DW7Y-SZK/index.htm
狛犬屋「巽彫刻」
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